0.モチベーション
最近,マルチレベルとイベントヒストリーを授業で教える機会がありました.大学院の授業で習ったり,分析では使用していたものの,数式は追えていなかったので,この機会に勉強しました.
その中で,個人的に参照してよかったな,というものをあげていきます.
それぞれの分析法の説明は他にわかりやすいものがあると思うので,そちらをみてください.
1.マルチレベル分析
マルチレベル分析は,複数のレベルがあるデータを分析する際に用いる方法です.
分散分析と考え方は似ていて,散らばりを集団と個人に分けて考えます.
ランダム切片モデルからはじまり,ランダム係数モデル,クロスレベル交互作用を入れたモデル,マルチレベルSEMと応用可能性もあり,社会学では比較的よくみる分析法だと思います.
私のようなあまり数学が得意でない人でもオススメの参考書は,
- 永吉希久子,2016,『行動科学の統計学:社会調査のデータ分析』共立出版.
- 尾崎幸謙・川端一光・山田剛史編著,2018,『Rで学ぶマルチレベル入門編:基本モデルの考え方と分析』朝倉書店.
- 清水裕士,2014,『個人と集団のマルチレベル分析』ナカニシヤ出版.
永吉本は,1つのまとまった章でマルチレベル分析が紹介されています.Rコードも載っています.
尾崎本には実践編もあり,入門編が終わったらそちらに進むこともできます(私は未読です).
清水本ではHLM7やHADといったソフトウェアを用いた分析方法も紹介されています.
2.イベントヒストリー分析(生存時間分析)
イベントヒストリー分析は,パネルデータを用いた分析方法で,分析方法の名前の通り生存/死亡,あるいは他にも結婚,転職といったイベントが起こるまでの時間に関しての分析です.
イベントヒストリーでは,打ち切りという不完全な観測値にも対応でき,家族や労働といった分野でよく用いられている印象があります.
数式が少し難しいのですが,その中でも私が読んで比較的理解が進んだ参考書は,
- Allison, P. D., 2014, Event History and Survival Analysis Second Edition, London :Sage(福田亘孝訳,2021,『イベントヒストリー分析』共立出版).
- Gareth, J., D. Witten, T. Hastie, R. Tibshirani, 2013, An Introduction to Statistical Learning : with applications in R, New York :Springer.
- 杉本知之,2021,『生存時間分析』朝倉出版.
- 筒井淳也・平井裕久・水落正明・秋吉美都・坂本和靖・福田亘孝,2011,『Stataで計量経済学入門(第2版)』ミネルヴァ書房.
筒井ほか本は1つのまとまった章でイベントヒストリー分析が紹介されています.まず読むならこの本から始めてもよいと思います.
杉本本は数式展開が細かく,精緻に数学的に理解を深めたいならオススメです.ISLも1章でイベントヒストリーが紹介されています.
残念ながら日本語で訳された本には載っていないので,オリジナル版にあたる必要があります.
ただし,ISLはオンライン上で公式にPDF版が公開されています(最高!).
Allisonの邦訳は基本の理解を終えた方がモデルの理解を深めるための本かな,と思います.
ちなみに,以前は丸善出版から『生存時間分析』という黄色い本が出ていたのですが,2024年2月現在は手に入れることができないようです.
どなたかの参考になれば幸いです.